港区芝で日本酒と焼酎の販売、お酒と一緒に雑貨や本を売っています。

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一番勝負『新潟県糸魚川市 合名会社渡辺酒造店 根知男山 純米吟醸55』

最初の相手は、新潟県糸魚川市根小屋(根知谷)から来た「根知男山 純米吟醸55」だ。

渡辺酒造店 根知男山 純米吟醸55
渡辺酒造店 根知男山 純米吟醸55 裏ラベル

渡辺酒造店のある根知谷とは、新潟県の西の端、富山県と長野県に隣接する山間部で、日本海まで約10キロ、ユネスコ世界ジオパークの中にあり、冬には2メートルを超える雪で天然の冷蔵庫と化す浅い谷である。
谷の真ん中には根知川が流れ、姫川へと合流する。
根知谷の上流部には駒ケ岳(標高1,487m)と雨飾山(標高1,962m)があり、山と川と海という自然に恵まれたというか、それしかない地区である。
そこで造られた「根知男山 純米吟醸55」が今日のお相手だ。

根知谷風景

根知谷風景

剣道家としては「一眼二足三胆四力」(いちがんにそくさんたんしりき)まずは、相手を見破る洞察力が必要だ。
そこで、相手の全体像を見ることから始めよう。

ラベルの面構えはなかなかいい。大きく「男山」とある。男という字の右横に小さく根知と細い字で入れてある。
根知男山と読ませるのだろうが、根知が随分控えめである。
ラベルは紫のグラデーションになっている。紫というのは「高貴」、「上位」などを連想させる。聖徳太子が定めた「冠位十二階」の制度において、「紫」が最上位の位階を示す色であったことから高貴や上位のイメージが強いのだろう。また、僧侶の袈裟の色も大僧正の緋色に次ぐ権大僧正は紫である。
ボトル喉元のラベルには紫の地に白く純米吟醸と刷り込まれ、その下に銀色で自社栽培と印刷されている。自社栽培の文字が銀で光っている。こやつ何かあるな。ただものではないぞ。

男山という銘柄は、「剣菱」「七ツ梅」と並び、古く江戸時代から伝わる日本酒三大銘柄に数えられていたという。今は勢力図が大きく変わっているが、全国に「〇〇男山」の酒銘が多いのはそのためであろう。「男山」といえば日本酒を指す代名詞のようなものであったと聞いた。現在全国に20以上の男山の銘柄があるのも頷ける。

裏ラベルを見てみると、明治元年創業とある。そして、「自社栽培で米作りから酒造りまですべて根知谷で完結する酒蔵です。」と書いてある。
ここでも「自社栽培」という文字が出てくる。

この蔵を訪ねたとき、眼前に広がる緩やかな棚田が印象的であった。3月で雪がまだ残り棚田は閑散とした様子であったが、5月の田植えが終わり7月頃には緑の絨毯が一面に広がる様子が想像できた。

根知谷風景

根知谷風景(正面が渡辺酒造店豊穣蔵)

自社の棚田は数枚であるが、過疎化が進み根知谷の農家で米作りが出来なくなったところを借り受け自社栽培を広げていったという。今ではほぼ全量自社米で酒造りをしている。
ここの親御(蔵元)さんは根知谷というテロワールをとても大切にしている。ここでしかできない酒造りを追及しているのだ。
技術は必ず追いつかれるが、その土地が持つ特徴は誰も真似ができない。だから根知谷というテロワールを大切にしてここでしか作れないお酒を造っている。
その土地が持つ特徴といえば、ここはユネスコ世界ジオパークの中にある。
日本列島を東西に分けるフォッサマグナの上にあるのだ。こんな土地で作る酒米はめったにない。「自社栽培」の銀の文字が光っていたのはそのためだ。

これは油断が出来ない、「根知男山 純米吟醸55」は蔵を代表するお酒だと聞く。
渡辺酒造店の先鋒としては、相手に不足はない。

根知谷フォッサマグナパーク

根知谷フォッサマグナパーク

この酒は下手な駆け引きはしない、多分真っすぐ正面へ打ち込んでくるだろう。
よし、その面をしっかり打ち返す心づもりで受けてたとう。

酒器は少し大ぶりのぐい呑みで勝負だ。
器の八分目まで注いで先ずは香から、香は華やぐというより穏やかな香である。これは、新潟県醸造試験場のG9という酵母の特徴でもある。
お米は、新潟県が開発した根知谷産の五百万石と越淡麗を使用している。
五百万石はスッキリした切れの良い味わいが特徴で、越淡麗は大粒で高度精米に適し、柔らかくてふくらみがあるのが特徴だ。新潟特有の淡麗辛口にふくらみを持たせた辛口に仕上がっていると見切った。

先ずは一口舌で転がす、清涼感があり米の味わいを柔らかくしている。そして切れがいい。やや辛口なのは想像どおりである。
読みはほぼ的中だ。ここからは一気に喉を通す。切れがいいので、飲み飽きしない酒だ。
程良い酸味が全体をバランス良く引き締めている。
この酒は正直だ。
駆け引きをしない。素直に正面を狙って打ってきた。
そこを一瞬早く相手の面に打ち返したような爽やかな飲み口だ。
渡辺社長の笑顔が余韻とともに浮かび上がる。
今日の一本勝負はここまでである。

ものがたり酒店店主と渡辺酒造店社長

右 渡辺社長

「一眼二足三胆四力」

剣道を修行する上で大事な要素をその重要度に応じて示した言葉である。
一眼とは、剣道で一番大事なことは相手を見破る眼力であり洞察力である。
二足とは、初心者は手打ちが多く足がついていかない。すり足で相手の間合いを盗んで足から打ち込むことが大切である。技の根元は足であり、足さばきは剣道で最も重要視されるものである。
三胆とは、胆は胆力であり度胸ともいう。相手に動ぜぬ胆力と決断力であり不動心の意味である。
四力とは、体力ではなく技術の力(高さ)であり、わざを出す前のことである。剣道は技を出すときにはすでに一眼二足三胆で相手に勝っており、技で勝つのではなく、勝ってから技を出すのである。

剣道家プロフィール

  • 剣道教士七段(剣道歴63年)
  • 球磨焼酎案内人(NO1619)
  • 東京・芝「ものがたり酒店」店主

日本酒・焼酎という和酒に特化して剣道家の視点から和酒との一本勝負を日夜続けている。
1本の酒瓶からお酒の故郷、お酒の生い立ち、親御(蔵元)さんの事までを見抜く力を養い、「剣酒一如」を追求し、奥深く和酒に親しむ道を広めている。

  • 2021年05月28日
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